東京地方裁判所 昭和38年(ワ)6706号 判決
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〔判決理由〕そこで右解約申入の事由とされた本件ビル改築の必要性の有無について判断する。
(1) 本件ビルが果してその入居者を退去させてまでも改築する必要があるかどうかを判断するについては、建物として現にその利用上支障ありや否やという点の判断は勿論であるが、本件ビルが都心に位置し特に原告が貸ビル業を営むものであることなどを考慮に入れた上で、それが構造上近代的ビルとしての機能を充分とまではいかなくとも多少なりとも具備しているかどうかという点の判断も亦必要であろう。
(2) そこで先ず前者の利用上の改築事由については、本件ビルが地下一階、地上五階の建物であり、被告がその地階を使用していることよりして、被告賃借部分と地階を含むビル全体とに分けて考察する必要がある。
(イ) …によると、被告の賃借している地階は、時に天井から漏水や排水ポンプの故障による水漏れ等はあつたが、営業上別段支障はなかつたことが認められるから、地階に関する限り、利用上からの改築はその必要がないといえよう。
(ロ) 然し本件ビル全体についての改築についてはこれと異り、前者が主に賃借人たる被告の立場からする判断であるのに対し、賃貸人であり且つ建物所有者としての原告の立場から判断せねばならない。そしてこのような判断は通常の独立賃貸家屋にあつては不必要であるが、各階が構造上不可分に結合されている高戸建築にあつては当然考慮されなければならない事項である。……によると、本件ビルは大正一四年建築されたもので、昭和二〇年五月空襲による火災のため二階以上焼失し、現在まで応急的修理しか施されていないことが認められる。ところで本件ビルの現状については、……によれば
(a) 本件ビルは西南隅に向い不動沈下を起しており、内外よりの防水力の低下によりコンクリート気泡六内に侵入した水分のため弱体化され又火災の高温によりコンクリート表面は変質し上塗及び仕上げの屋根面、外壁、床等のモルタル塗は処々脱落し、内部のプラスターモルタル塗等も老化し、破損脱落等、天井壁などに現われていること、このような自然老化、被火災による脆弱化のため関東震災程度の地震をうけた場合には倒壊の危険があること。
(b) 屋根のアスフアルト防水は老化して、油性を失い防水力なく、屋根の手摺下部は腐蝕破壊しておりアスフアルト防水屋上のモルタル塗もセメントの硬化能力を失い変質している。地下室防水も右屋上防水同様防水力は弱体化し、外壁モルタル塗も北南西三方とも上塗が落ちコンクリート壁の現われている処があり、雨水がコンクリート躯体内に侵入していること。
(c) 屋根雨水、各階雑用水の排水及びポンプ室の漏水の排水等が不完全なため壁体、床、特にエレベーター下のピットは常に溜水し天井、壁体に浸水個所を生じ、更に開口部、窓、入口等の周辺は、防水不完全となつたためサツシ、ドアー等が錆腐れ、その間から壁体に浸水していること。
(d) このような建物内外部における各所よりの浸水及び腐錆に対する根本的修理は技術的に不可能であるのみならず、保健衛生上の見地からも好ましくないこと等が認められ、叙上認定を左右するに足る証拠はない。然らばこのような状態にある本件ビルを建物としてこの効用を完全なものとするために原告が改築工事を計画施行したとしても何らこれを咎むべきではあるまい。
(4) ところで前に利用上の改築に対し、近代的ビルとしての機能上よりする改築という点からも考察すべきものとしたが、前記の如き事由に加えて、本件ビルは前記鑑定によれば東西銀座八丁の中心部に位置し、周囲は近代的建築が櫛比し、地価の高騰に伴いできる限り地下及び空間の高度利用が要求される地域であるのに、本件ビルはこのような近代的ビルに比較すれば、遙かにその利用価値が劣り、その構造、外観よりして前時代的建物と称すべきものであることが認められ、他方原告が所謂貸ビル業を営む法人であることを考慮すれば、原告としては一日も早く本件ビルを近代的ビルに改築しようとすることはまことに無理からぬところといえよう。
(5) そして原告において本件ビルを改築する具体的計画を有していることは……によりこれを認めうるところである。
……以上認定したとおり、本件ビルは、老朽化と被災による脆弱化により近代的ビルとしての機能を喪失し、戦後二〇年を経た現在においてはこれが改築の必要あることは明らかであるから、原告の本件解約申入は正当事由を完備しているものというべく、右解約申入の日であること当事者間に争いのない昭和三七年一二月一二日から六カ月後の昭和三八年六月一二日の経過により、本件賃貸借は終了したものと解すべきである。(加藤宏)